Medical content 診療内容
顔面神経麻痺
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顔面神経麻痺とは
病気やケガが原因で顔面神経(表情をつくったり、唾液を分泌したりする機能を持つ神経)に障害が生じ、まぶたが開閉しにくい、口が閉じられないといった症状が起こる病気。中枢性顔面神経まひと末梢性顔面神経まひの2種類に分かれ、前者は主に頬や口の周辺に、後者は目や額などを含め顔全体に症状が見られる。前者は、顔面神経に情報を伝える脳そのものが脳卒中や脳梗塞などで障害されることが主な原因である。後者は、骨折や外傷によって顔面神経が圧迫され、情報伝達が途中で阻害されてしまうことで起こる。また、顔面神経がウイルスに侵されることでまひが生じることもあり、これらはベルまひやハント症候群と呼ばれる。
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原因
末梢性顔面神経まひの症状の始まり方には大きく分けて3種類ある。
1. ある日突然「朝起きたら顔が動かない」「気がついたら顔が曲がってきた」というまひである。最も多いのは、ウイルスが顔面神経に感染して生じるもので、「ベルまひ」「ハント症候群」と呼ばれる。
2. 外科手術やケガの後にまひが生じるもので、脳神経外科、耳鼻咽喉科の手術、顔面神経が通っている側頭骨の骨折、顔面に負った深い傷によって顔面神経が損傷されたことなどが原因となる。
3. ゆっくりとまひが生じるケースで、特殊な神経や血管の病気によって顔面神経にゆっくりと障害が生じた結果、顔面神経まひが起こるものである。
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症状
うまく笑えない、口を閉じることができない、顔が左右非対称に見える、といった症状が出る。また、まぶたの開閉がうまくできなくなることで目が異常に乾いたり、額にしわを寄せられなくなったりすることもある。
また、顔面神経には味の情報を伝えたり、涙の分泌をコントロールしたりする働きもあるため、味覚に異常が出る、涙の量が減るといった症状が見られることも。このほか、ベルまひやハント症候群の場合、口を動かすとまぶたが自動的に閉じられる、などの「異常共同運動(本人の意思と関係なくほかの部位が連動して動いてしまう運動)」と呼ばれる現象を伴うことがある。口の中に異物感があったり、まひしている側の耳が過敏になったりすることもある。 -
診断
問診で「笑えない」「口から食べ物がこぼれる」といった自覚症状を確認するほか、まばたきをする、口角を外側へ伸ばすなど、顔のさまざまな部位を動かしてまひがあるかどうかを調べる。視診では、顔のゆがみなど特徴的な症状がみられるかチェックする。味覚や涙の量が正常かどうかも併せて検査する。また、まひの原因やウイルス感染の可能性の有無を調べるための血液検査、顔面神経を中心に撮影するMRI検査、まひの程度を判定する顔面神経の筋電図検査などを行う。
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病院での治療
ベル麻痺、ハント症候群の場合、一般的には顔面神経のむくみを取るステロイド治療と、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス剤による治療が行われる。
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当院の治療
当院における鍼灸治療は東洋医学の脈診、腹診を行い、治療目標は体質を改善することによる根本原因の除去です。
そのため、鍼灸治療で改善できた症状は再発しにくいのが特徴です。
薬物治療により改善が見られない場合や症状を繰り返すような場合は当院の鍼灸治療をお勧めいたします。 鍼治療にはさまざまな方法がありますが、当院では顔面神経麻痺患者さんの顔面部には置鍼治療を用いています(置鍼とは刺した鍼を数分間留置しておく方法をいいます)。
鍼へ低周波刺激を行う治療方法もありますが、現在は当院においてはこの方法を選択していません。顔面神経麻痺の治療において低周波刺激が拘縮や病的共同運動などの後遺症を助長するとの意見がでてきたことがその理由のひとつです。
しかし、鍼への低周波刺激が悪影響を及ぼすという結果はわれわれが調査した範囲ではでていません。この点については、今後詳細な検討が必要となってくると思われます。
※顔面神経麻痺の治療にはいくつかの選択肢があり、鍼治療ですべての患者さんが治癒するわけではありません。 -
病期に応じた対応を行う
1ヶ月以内
原則として、現代医学的治療を優先してもらう。
医師からの依頼または患者さんの希望があれば週1~2回の鍼治療を行う。
1ヶ月~6か月
週1~2回の鍼治療を行う。
重症例では3か月くらいまでに鍼治療を開始することがひとつの目安になると考える。
6か月~1年
1~2週に1回の鍼治療を行う。
鍼治療の中止を勧めて不安が強くなる場合、徐々に治療間隔を空けていくようにする。
1年以上
自覚症状が改善されることがあり、患者さんの希望があれば鍼治療を行う。
治療間隔は患者さん自身に決めてもらう。
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予防/治療後の注意
顔面神経麻痺を発症する背景のひとつには、体力が低下していることが考えられます。そのため、過度のストレスを避け、十分な休養と睡眠をとることが重要です。
また、顔面神経麻痺は急に顔に症状が出るためにショックを受けられる方も多く、心理的に暗くなりがちです。顔を見られないように外出を控えたり、正常な発音がしにくいため会話が少なくなったりする方も多くいらっしゃいます。
症状が改善する可能性は十分にあります。なるべく明るく活動的な生活を続けるようにしてください。また、寒風や冷房などで顔を冷やさないようにすることも大切です。
自分で行える顔の筋肉を動かす訓練には、鏡を見ながらの百面相や、明確なアイウエオの発声、眼の開閉などがあります。これらの訓練を1日に朝晩2回、5分程度と短めに行うとよいでしょう。ただし、過度にしないことや無理に動かさないことに注意して行ってください。